2009年センター試験「物理 I 」について

2008.2.9.奈良県理科学会物理部会にて

はじめに

 2009年1月18日実施。新課程になって4回目のセンター試験(本試験)が実施された。平均点63.55点は昨年並み(1月23日中間集計その2)のようだ。
 今回の出題の概況として,次のようなことが挙げられるのではないか。
・熱分野から気体の状態変化が出題された
磁気に関する出題がほとんどない
・エネルギー保存則に関する出題がない
・一昨年度からの選択肢の増加が維持
一昨年度は従来の問題集では見かけなかった問題がいくつか出されたが,昨年度から今年度にかけて減少傾向にある

第1問

 いつものように小問集合。全分野を範囲とした出題。配点30点。

 問2は,新課程以降に登場した新しいタイプの問題(生活の中で用いられる物理を扱う問題)の流れを汲む問いである。 P=V^2/R で考える方法と, F=Bilとi=V/R で考える方法があると思われる。順序を全く逆にして答えた者も多かったのではないだろうか。受験問題集だけこなしていたのでは解答のとっかかりをつかめず,直感で選択してしまいやすい。ちなみに手元にあった6社の物理教科書をざっと見たところ,2社で手回し発電器が書かれていないようである。定番の実験グッズではあるが,見たことも触れたこともない受験生は不利である。他校の先生方にも聞いたが,問2は正答率の低い設問のようである。

 問2以外は一度は見たり考えたりした問題であったと思う。そういう意味では安心して取り組めた,従来タイプの出題といえる。

 配点は1問あたり5点であり,他の問題に比較して高い。問1が2つ完答で5点というのは気になった。別々に点を与えても良いところと思う。これは2年前にも指摘したことである。

第2問

 電磁気分野からの出題。配点20点。

 Aははく検電器の問題。授業中に演示実験を見たり実際に自分で実験をした生徒なら印象に残りやすいが,実物を見たことがないと解きにくかったかもしれない。はく検電器についても6社の教科書を見たところ,2社で扱われていないようである。

 Bの問5は携帯電話の電池が題材で,現代的である。問題文に条件が明記されているので,きちんと読んで考えればよい。問4・問5とも Q=It を用いるが,電気量や電気素量といった概念は物理 I だけ学習した生徒に定着しているだろうか。

 4つの大問中,もっとも計算量の少ないのが2番である。数値計算も値が工夫されている。

第3問

 波動分野からの出題。配点22点。

 Aは音波の定常波やうなり,ドップラー効果に関連しており,少ない問題で多くの学習事項を問いかけようとする出題者の努力を感じる。問3では物理現象を別の解釈で説明しており,物理のおもしろさを出すことに成功している。ただし解くに当たっては易しくすることへの配慮もあるようだ。少し気になったのは観測者が動く場合のドップラー効果というのは,教科書では発展の扱いである。多くの高校ではきちんと授業で取り上げられているとは思うが,センター試験で定性的とはいえ出題されたことの影響は小さくないという気がする。

 Bは回折格子を用いた光の干渉を問うた内容で,一般的な問題集にもよく扱われているオーソドックスな出題であった。可視光を分散させたときの色の順序や波長との関係は,やはり暗記事項のようだ(過去にも出されている)。

第4問

 力学・熱分野。配点28点(うち力学は20点)。

 Aでは剛体のつり合いを通して,合成ばね定数やエネルギー,力のモーメントのつり合いを考えさせている。エネルギー保存則はないものの,3番同様,少ない問題の中に多くの要素を含ませ,多角的に作問されているように思う。

 Bは一昨年にも出た浮力の問題。問5で運動方程式へと展開しているのは意外だったが,全体として取っつきやすい問題であった。浮力は隔年現象か? まぁそんなことはないとは思うが・・・

 Cは昨年なぜか出なかった熱分野からの出題。気体の状態変化は新課程になって初めての出題だが,それほど難しくない。問7でミスしやすい事柄は太字で示すなど配慮も感じる(太字で注意を促しているのはここだけである)。

全体として

 出題量,解答時間,難易度,内容などの面でよく考えられた出題となっており,評価したい。ただ磁気を含む事柄がほとんど出されなかったことは,残念である。

 新課程になって,浮力が中学校で扱われなくなったことから,高校での学習事項=大学入試問題の題材としてよく認識されている。しかし,電気抵抗の並列接続時の合成抵抗が高校での初出事項であることはあまり知られていない。このあたりも高校では丁寧に学習指導する必要があることを我々は再確認したい。

 選択肢の増加は定着した。新課程のセンター試験が実施されたとき,選択肢が大幅に増えたことを感じたものだ。これは,旧課程の物理 I Bから物理 I になってから学習の分量が減ったため,受験生の負担も減っており,それは単純には平均点の上昇を予測させる。従って平均点上昇を抑制するために選択肢を増やしたというのが私の見立てである。ずいぶん前にも物理の平均点が化学・生物・地学に比べて低い時があり,その翌年に選択肢を減らしたところ平均点が上昇したという経緯がある。関連を感じる。

 3年前は新学習指導要領で授業を受けた生徒が初めて受験に臨むときであったため,指導要領に忠実な問題作りをしていたのか,生活の中にある身近な物理を意識して問題が作成されていたようである。しかし昨年,今年と,その色は薄くなってきたように思う。辛うじて1番の問2や2番の問5がその名残か。その意味では旧来からある演習問題をこなしていると点数を得やすいようにシフトしたのではないだろうか。学校現場における受験指導という面においては,教員にすれば対策を立てやすい傾向かもしれないし,受験生にとっても安心できるだろう。次回もこの傾向が続くのか,それとも揺り戻しがあるのかは予測できないが,現場に実験軽視の風潮が強まらないことを願うばかりである。

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