2008年センター試験物理 I について

2008.1.29.奈良県理科学会物理部会にて

はじめに

2008年1月20日実施。新課程になって3回目のセンター試験(本試験)が実施された。平均点64.7点は昨年並みとのこと(1月24日現在)。今回の出題の概況として,次のようなことが挙げられるのではないか。

 ・熱分野からの出題がなかった
 ・熱を除くと,物理 I のどの分野からも出題されている
 ・次元解析の出題
 ・中学段階の学習内容の出題(レンズ)
 ・昨年度に計算量の増加があったが,元に戻った
 ・昨年度からの選択肢の増加が維持
 ・昨年度は従来の問題集では見かけなかった問題がいくつか出されたが,今年度はそれほどでもない


第1問

配点30点。従来の小問集合の形式。昨年度は電磁気分野が目立ったが,今年度はない。エネルギー関連で10点分。平易だが立式や計算もある。次元解析が目新しい。

問3は知識問題でつまらない。問4は力についてよく練られた良問。問6は対策をしていない受験生が多かったと思われる。この問いは目新しさと取っつきにくさがあるが,質量の次元はないので案外易しい。授業中たまに次元解析の話をするくらいで十分対応できる。

第4問で熱分野を出題しないなら,第1問で出題してもよかったのではないか。第1問と第4問を検討すると分かるが,力学的エネルギー保存則や運動方程式が重複しており,疑問を感じる。昨年度にエネルギー関連の問題を全く出さなかったことの反動か?


第2問

配点20点。内訳は電気3問,電磁気2問。

定性的な問題が多かった。計算は問3のみ(それもほんの少し)だが,よく考えさせる問題が出されている。問2は物理 II での「等電位の部分では電流は流れない」ということを知っていれば,即答できる。

「黒鉛筆で方眼紙のマスを濃く均一に塗りつぶして電気抵抗を作り,合成抵抗の実験をする。」とあるが,うまくいくためにはノウハウがあると思われる。とくにHBなどでなく,もっと濃い鉛筆を使う方がよいとか,鉛筆より墨の方がよいとか。今後追試をしてみたい。(後日しました。HBより濃い方がよい結果ですが,色を塗るムラが出やすい。やはり墨の方がよさそうです。)

第3問

配点20点。波動分野である。A問題はレンズ,B問題はドップラー効果であった。昨年度は音波の領域はあまりなかったことと比べると,今回はしっかり出された。

全体的に基本的な内容で良問である。特にレンズは易しい。問1と問3は中学の内容である。それを大学入試の問題として出題することを不思議に感じる。問3は知識として知っている者も多いし,実験した生徒は印象に残っているだろう。ドップラー効果はよく考えられている問題。現象を把握し,グラフでの表現に習熟していないと解けなかったのではないか。特に問5は他に比べて正答率が低いかも知れない。こういう問題も入試には必要であろうことは理解できる。


第4問

配点30点。力学分野。従来はA,B,Cと分かれており,Cは熱であったが,今回はA,Bのみで熱は出題されず。

Aの装置は過去にもセンター試験で出ていたり,市販の問題集でも見かけるものなので,受験生は安心して解いただろう。Bはとても良い問題であるが,式のみを答えるなど物足りなさを感じた。

少し細かく。問1は,第1問の問1と同じ解き方となる。力学的エネルギー保存則または自由落下運動として解くことになる。さらに問2の運動方程式の立式によって加速度を求める問題は第1問の問4でも出ており,重複している。これらの重複は避けられなかったのか。問6のグラフ選択問題は思考力を問う面白い問題で楽しい。


まとめ

全体としてよく考えられた良問が多い試験であった。昨年度も感じたが,典型的なパターン問題だけでなく,新しい出題傾向を模索し,思考力を問う内容は歓迎したい。

現行の学習指導要領では実験の時間数増が明記されており,重視傾向が強まっている。それに反して実際の現場では,問題演習の方を重視する風潮が広く浸透しているものと思われる。学習指導要領に忠実なセンター試験では実験問題を工夫して出題している。前年もそうであったが,授業で使えそうな実験を題材として取り上げたものも見られ,センター側の努力と出題者の意欲は評価したい

すでに述べたように,昨年度出されなかったエネルギー保存に関する問は適切に出されている。むしろ第1問と第4問の重複が見られ,過剰であるとも思える。ところが熱は全く出題されなかった。これよりは是正すべきであっただろう。

1年前のまとめにも書いたこと。「日頃より実験・実習を重視した授業を行い,物理現象をよく考え,理解しようとする生徒を育てたいと考えているが,受験が決して相容れない存在ではないことを感じる出題であったと思う。生徒達も問題を解きながら,実際にやってみたいと思える内容があるのではないか。今回のような出題がメッセージ性を持ち,学校現場に対して受験の名の下に実験・実習を犠牲にすることのないよう訴えてくれればと願う。」このことは今回の試験でも感じた次第である。


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