2007年センター試験物理 I について

2007.2.1.奈良県理科学会物理部会にて

はじめに

2007年1月21日,新課程になって2回目のセンター試験(本試験)が実施された。よく,「新課程1年目は易しく,2年目は反動で難化し,3年目で落ち着く」と言われるが,物理は昨年・今年とその通りである。今回の出題の概況として,次のようなことが挙げられるのではないか。

・前回は見送られた電磁気分野の出題
・計算量の増加
・選択肢の増加
・解答所要時間の増加
・物理 I のどの分野からも満遍なく出題されており,配点も偏りはない
・従来の問題集では見かけなかった問題がいくつか出されている
(生活や身の回りに題材を求めている・・・新課程の物理でその傾向が顕著)

その他,予備校のホームページにいろいろ掲載されているので,そちらも参照されたい。


第1問

配点31点。従来の小問集合の形式。どの分野からも出題されているが,大方の予想通り電磁気分野が目立つ。平易だが計算もある。

問2の右図の問題は問題文が詳しいため易しいが,渦電流を理解していないと現象を把握できなかったと思われる。

問3は単位を正しく扱えれば,本質は小学校の算数の程度であり,エネルギーの保存則などを意識しなくても何となく解けてしまえるのではないだろうか。

問4・5・6はありふれた基本的な問題である。図も丁寧に用意されている。



第2問

配点16点。内訳は電気2問,電磁気2問。

前半は易しい中にも目新しさが感じられる。後半は平均的な問題だが,よく考えられており,受験生の思考力を試せるのではないか。右図問4のイは順を追って考えて結論にたどり着く面白い問題である。よく授業でも公式などを用いて物理現象を定性的に説明するときに行う手法である。


第3問

配点21点。波動分野である。計算問題が多い。音波の領域はあまりないのは第1問に出題されているせいか。

全体的に基本的な内容で良問である。三角関数表の掲載は珍しいが,数値が考えられており,つまずかないだろう。特筆すべきは問1の干渉縞の模様の選択である。出題者は計算で明線の間隔を求めて欲しいのだろうと思われるが,授業で実験を行ったり,何度か干渉模様を見たことがあれば,図を見ただけで正解を選べる。


第4問

配点32点。力学と熱の分野。A,Bは力学で24点分。Cは熱で8点分。

A,Bはグラフが1問の他はすべて計算問題。計算は簡単ではあるが平均を下げそうに感じた。問1・2はオーソドックスな問題。問3は難しくはないがグラフを読み取る力を試す問題。また問4・5・6は潜水艦を題材に水圧や浮力を考える問題。浮力は旧課程では中学で学習する内容であったが,新課程から高校に送られたため,入試においてもメインテーマとして出題するようになったと考えられる。なお終端速度はカバーしていない受験生もいると思われる。

Cは熱の問題である。問7は直感に頼った受験生も多かったのではないだろうか(アは簡単なため,9択だが実質は3択に近い)。モデル化を行い,計算を進めると結論に到達するが,時間がかかる。個人的には日常生活の気になることを取り上げていて面白いのだが,見慣れない問題のため受験生は戸惑ったかもしれない。予備校の評価は「特異な問題で物理的考察力がはかれるとは思えない」<河合塾>,「日常的な現象を題材とした良問である」<駿台>,「計算の代わりに熱の出入り・流れを正確に把握する必要があり、考察力が試される」<東進>とホームページに掲載されている。皆さんはどうお考えになるでしょうか。


まとめ

平均点は前回より下がるであろうけれど,よく考えられた良問が多い試験であった。典型的なパターン問題だけでなく,新しい出題傾向を模索し,思考力を問う内容は歓迎したい。一方で文系生徒の敬遠を招くようなことも避けなければならず,来年度以降も出題には一層の工夫が求められる。また,問題量を増やすならば計算の負担を軽減するなどの配慮があっても良かったのではないかと感じる。

物理 I の学習内容を全網羅的に出題しようとしたせいか,出題されなかった分野が少ない。その中でも力学的エネルギー保存則が出されなかったのは不思議である

日頃より実験・実習を重視した授業を行い,物理現象をよく考え,理解しようとする生徒を育てたいと考えているが,受験が決して相容れない存在ではないことを感じる出題であったと思う。生徒達も問題を解きながら,実際にやってみたいと思える内容があるのではないか。今回のような出題がメッセージ性を持ち,学校現場に対して受験の名の下に実験・実習を犠牲にすることのないよう訴えてくれればと願う。


追記

湯飲みの問題は2つの空欄を埋めて選択肢が1つ選べる(4点)ようになっている。4点を2点ずつに分けて配点して欲しい。これは湯飲みの問題だけでなく,今回出題された完全解答の問はその必然性の薄いものもあり,配点を分離すべきではないだろうか。

現場では物理 I の電磁気分野を軽視し,教科書会社も追随した編集に傾いているが,それを改めるよう促している出題にも思える。現状では物理 I を選択した大半の生徒が物理 II を選択していると思われる。従って I の電磁気分野はお荷物のようになっており, II で体系的に学習する生徒には確かに不要かも知れない。しかし II を選択しない生徒には授業で重視されないことになり,今回の電磁気の出題傾向は不利に働いたと思う。今後,現場が I の電磁気を重視するかどうかをめぐって混乱が生じる可能性があると感じた。

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